2015.05.11 Monday
ミネルバボックスについて
「ミネルバ」という名前を聞くだけで、すでに「あぁ、あれね」とイメージが浮かぶ革好きなお客様も多いかもしれませんけれども。軽くおつきあいくださいませね。
ミネルバボックスは、イタリアはバダラッシ・カルロ社が鞣しているフルベジタブルタンニンレザーの一つです。
大きくくくりをわけると牛革ということにはなりますけれども、その独特な風合いは他のタンナーではまず見られることのない、面白い皮革。
神戸のル・ボナーさんでは、こうして定番のパパスショルダーに用いる他、フラソリティーさんと共同で製作している通称フラボナシリーズなどで多く使われています。
このところ少し製作が少ないので、CIRCLEでミネルバボックスの革が店頭に来るのは、なんだかんだで初めてくらいに近い。店主としては、以前のお仕事などでものすごく馴染みのある皮革なのですけれども。
バダラッシ・カルロ社は、ちょっと変わったタンナーさんです。
というのも、そもそもの創業者であるバダラッシ・カルロ(カルロ・バダラッシの順番の方が良いのかな)氏は初めはタンナーではありませんでした。彼はどちらかと言えば革の作り方や歴史、そういったところを研究する学者サイドの人間で、イタリアの学校に講師的に勤めては皮革の研究をしていました。
そんな研究の中で、イタリアはフィレンツェに1000年も前に存在したバゲッタ製法という昔ながらの製法を、きっちりとその当時のやり方のまま、復刻製作をすることに成功したのが始まり。
そんな風に革を研究しているうちに、「もう自分たちで製革をしてしまった方が、より昔らしい風合い豊かな革が作れる」ということでバダラッシ・カルロ社は成り立ち、今はイタリア皮革としては欠かせないタンナーになりました。
バゲッタ製法というのはとってもとっても平たく言ってしまうと、革を鞣す際には完全にベジタブルタンニン(自然の植物から採れるタンニン成分)を用いて、ゆっくりとゆっくりと時間をかけて牛革を鞣し、そして牛の無蹄足やすね骨の部分、ようは足の部分を煮出して取り出す「牛脚油(ニーツフットオイル)」を、たっぷりと染み込ませていく手法。
その油を染み込ませる過程がものすごく大変で、油はじっくりじっくりしか染み渡らせることができません。それゆえ、現代の皮革と比べると同じタンニン鞣しの牛革としても生産効率としては決して良いものではありません。
また、油は現代では様々なものが用いられていて、ニーツフットオイルのような「獣脂」をはじめ、「植物油」、「魚油」、「鉱物油」などが用いられます。そこには、広い意味で言えばブライドルレザーなどにも用いるロウも入れていいかもしれませんが。
そんな油分としてはかつて古くから使われていたのはやはり「獣脂」が基本で、次いで「植物油」、「魚油」、「鉱物油」という具合に様々使われることになったそうです。
ですので現代でも、革鞣しの際には「獣脂」が最もコスト的には高くかかってくる、と言われることも多く。
バダラッシ社はそんな動物系の油脂をしっかりと革に染み込ませるのが、本当に上手いタンナーです。その技術で言えば、なかなか右に出るところはないのでは、と思うくらい。(動物系油だけでは無い気がしますが、アメリカのホーウィン社が並んで上手だとも思います)
皮革に触れると明らかに「油が染み渡っているな」と感じられますし、香りからも同様のことが言える。
ミネルバボックスは、そんな油がじっくり染み込んだ牛革で、かつ自然な揉み加工にて独特のシボを不均一に付けられた皮革です。
型押しではなくあくまでも揉んで付けられているシワ感ですから、一枚一枚の牛革でもその深さや大きさに差がありますし、一枚の皮革の中でも部位によってまるで表情が異なります。
大きくぐっと柔らかいシボもあれば、細かくぎゅっとしたシボもあり、かと思えば深く強くシワを感じる部分もあり、さらにはまるでシボを感じ無いくらいにシワが薄い部分もあったりする。
その不均一な表情がまた面白く、ミネルバボックスは愉しみのある皮革。
逆にこのシボを設けずに、スムースにすこしハリがある感覚に仕立ててあるものが、同じミネルバというネーミングですが、ミネルバリスシオとなっています。
ボックスよりもわずかにハリがあって硬さがあり、それでも油がたっぷりしみているのでしなやかさはあるスムース革。これはこれで、やはり魅力的な皮革。
そのリスシオに表面にやすりを意図的にかけて、独特なスレ感と毛羽立ちを出したものがプエブロと呼ばれています。実際にバダラッシ氏に直接伺った時には「紙やすりだよ!」なんて言っていたのですけれども、やすりの跡を見るとどう考えても金属的なやすりも用いている気がしてならない店主です、はい。
さてさて、その他にもミネルバボックスににていますが、シボの付け方を「水タイコ」という違う環境・方式で行ったものをチグリ、なんていろいろ名前がついていたりします。
他にも表面にロウを引いたナッパネビアなどあげればもろもろと。(ナッパネビアはいつかCIRCLEでも使ってみたいなぁという面白い質感があります)
でもそのいろいろの大元の基本としてあるのが、やはりミネルバボックス・リスシオなのかなと思います。
ミネルバボックスの革をアップで見ると、その油分がわかりやすい。
何もしていない新品の状態でも、しっとりとした表面で油がしっかりと表面にも行き渡っていく感じが伝わると思います。
間違っても、カサカサ感なんて言葉は出てこないしっとりお肌です。
始めの段階からすでに光沢感も感じられるくらいに、しっかりとオイルがしみている。
もちろん、ここから使っていくと比較にならないほどさらにしっかりとオイルが表面を覆うようになり、びっくりるるくらいのツヤに包まれます。
そのツヤはどちらかと言えばヌラリとした柔らかい質感の光沢で、光沢感もやや渋い雰囲気があります。ブッテーロの凛とした固め感じに透明感があるツヤとは、また空気感がまるで違うものです。
どちらが優れている、というではなく同じイタリア系の革なのに、まるで違う表情になることが面白いという。
ミネルバボックスをはじめ、バダラッシ社の皮革のエイジング(経年変化)はかなり早めです。エイジングさせよう!と意識していようといまいと、使っているとあっという間に気がつけば色が変わり光沢に包まれます。
そのエイジングこそが、バダラッシ社の皮革の最大の魅力と感じる方も少なくないはず。
まぁ、はじめの段階からぐわぁっと迫力もあるものですけれども。
画像はコニャック色のミネルバですが、ここがスタートで驚くほど変化を遂げます。
エイジングの画像はル・ボナーさんよりせっかくなのでお借りさせていただきます。
店主も自分でミネルバのバッグや小物は使ってきたことがもちろんありますが、ちょっとそれは色々な大人の事情でここでは出せないので。ご理解くださいませね。
コニャックは、1トーンどころか2トーンほど色合いがぐっと濃くなり、ギラリギラリと光沢を帯びます。
赤みのあるこげ茶という具合に近くなるまで変化する。
早い方だと半年くらいたつとすでに色はワントーン濃く変わり、1〜2年すぎるころには、ぐっと渋い風合いが出てくるものです。
はじめからもっと濃いめのタバコ色はというと、色合いはさらにぐっと渋めに濃くなり、やはり光沢がギラギラと。
革全体もほどよく柔らかく馴染み、一層しなやかになります。
そしてグリージオというグレーとグリーンを足したような色合い、これが一番変化が激しい。
はじめの緑っぽさはどこへやら、というほどに茶色に変化します。そして光沢はビカビカと。
逆にはじめの色に惚れ込んだ!という方には、ミネルバボックスの皮革はあまりおすすめしません(笑)。嫌が応にも、絶対に色は変化していきますから。
ミネルバボックス自体は今は日本では約14色ほどは展開をしています。ネロ(ブラック)に始まり、ネイビー、タバコ、カスターニョ(栗色)、コニャック、ボーネ(ナチュラル)、ナポリ(イエロー)、グリージオ、オリーバ(緑)、パパベロ(赤)、ローズ(ピンク)、オルテンシア(ブルー)、ビアンコ(白)、そしてプルーニャ(紫)。
それぞれのネーミングもイタリアらしく、色あいはどれも深くかっこいいものが多い。そしてその色のどれもが、使い込むことでぐっと色が濃くなり、ツヤが出るという具合。あ、白だけはちょっと別ですね。
そんなミネルバボックスはお手入れは非常にラクチンです。とりあえず乾拭きのみ。
クリームを塗ったり、オイルを入れるのは全く入りません。不要なほどしっかりと油が詰まってます。むしろさらにオイルを入れたりしてしまうと、油分過多で表面がどことなく白っちゃけて、光沢が失われることもあります。
(そんな時は、ひたすらに使って油分を消耗させるほかないのですが)
タンニン革ですから、雨や水気がつくとはじめはシミっぽくなりますが、使っているとたっぷりの油分と色の変化によって、結局はなんだか雰囲気が良くなっていきます。
水に濡れても「革がダメになる」なんてことはありませんから、がしがし使っていただく方がミネルバボックスらしい迫力あるワイルドな顔になってくれます。
と、こんな具合が特徴のミネルバボックス。今はCIRCLEにある製品は多くはありませんけれど、色々なきっかけにてきっとご覧いただくことも出てくるだろうと思います。
その折には、ぜひその独特な風合いをまたお楽しみいただければなと思います。
CIRCLE
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