日本の皮革・クロザンカク(黒桟革)について
CIRCLEのブログ内では、幾度も名前が出てきているために少しずつ馴染みが出ているようにも感じますが、実はまだまだ特殊な存在であるクロザンカク。
クロザンカクは日本の姫路にあるタンナー(というより革問屋と言ってもいいでしょうか)、坂本商店さんが手がける純日本産の皮革。
幾度かご紹介をしているように、牛革を伝統的な白なめしという製法で極端に滑らかにしたて、そこに揉み加工や型押し加工を施してシボ革にし、さらに全体に上から本漆を擦り込んで仕上げられるクロザンカク。あえて「純日本産」と申し上げたのには、少し訳があります。
日本のタンナーさんが鞣す革は基本的には「日本産」なわけですが、実はその原皮には、海外から輸入されているものも多く使用されています。海外の原皮は量そのものも多いですし、えてして品質が高いことも多いので、皮革を愉しむことおいてはどうしても通らざるをえない現実。
日本には総てをまかないきれるほど、そこまで多くの革が作れるほどの高品質な原皮が無いため、北米やヨーロッパなどから原皮を買い、そこから日本国内でタンニンやクロームなどを用いて鞣し、皮(かわ)を革に仕立てています。もちろん、それが悪いわけでもなく、海外産の原皮は質の高いものが多く量も豊富ですので、そういった流れになるのはごく自然のことかもしれません。
(もちろん、日本産の原皮も国産の革には多く使用されています。様々な形式で日本ではたくさんの革を用いますので、それだけでは色々な観点で足りない部分を海外産で補填している側面もあろうかと思います)
そこで、クロザンカクの「純日本産」といったのはつまり、クロザンカクの原皮は基本的には「国産の黒毛和牛」を用いているからです。
無論、だから革が素晴らしい、という単純な話ではありませんが、漆と組み合わせる日本らしい皮革という意味合いにおいては、その純日本産であることは、少なからず筋の通った良い印象を感じます。
先ほど申し上げた行程は、とても手間のかかるものです。
白なめしはそれ自体がとても特殊ななめし方法で出来上がります。通常の皮革は原皮をタンニン液に長くつけ込んだり、あるいはクローム液を浸透させて皮の組織を固定化し、腐らない革を生み出します。
ところが、白なめしは原皮を長い時間をかけて綺麗な川の水にさらします。この川も適した川が存在し、やはり水の成分や綺麗さが関わってくるよう。そしてそれを天日干しにした後、塩と菜種油をもみ込んでいって、仕上げます。その過程は数ヶ月にもおよび、ヨーロッパの伝統的なつくりであるタンニンなめしのように、長い時間をかけて行われます。
そうして透き通ったベージュ色のように、白っぽく鞣された白なめし革を、丁寧に揉み込みます。クロザンカクの表面にあるドコボコは決して型押しではなく、しっかりと揉み加工をすることで作られるもの。
そしてその後に漆を擦り込んでは乾かし、擦り込んでは乾かし……を10回以上繰り返していきます。漆は通常の塗料とは異なりますので、ただ干しておけば乾く、というものではありません。一定の湿度と温度を保ち、化学変化をさせて固めていくというのが、漆を乾かすということ。
それは時間だけでなく環境を維持する意味でも、手間と根気のいる作業です。「革を鞣す」作業と「漆で仕立てる」作業の両方が綺麗に成り立つことで、クロザンカクは生まれます。
もちろん、大切なのはそういった過程だけではなく、実際に仕立てられた革の表情や風合いなのだと思います。
手間や時間をただかければ良いという話ではありません。
クロザンカクはその表情としても、奥深い特殊さを持っていると思います。不規則に入った細かなシボの雰囲気、見た目とは裏腹なしなやかで柔らかな手触り、そしてしっかりと擦り込まれた漆の持つキラキラとした美しい光沢。
まるでそれは、細かな宝石を革にちりばめたようでもあり、「和」のイメージを飛び越えた存在感があります。
革に漆、といえば鹿革に漆で模様を仕立てる「印でん(にんべんに専)」を想い起こしますが、まるで異なる風合いと表情をクロザンカクは持っています。
かつてはインドより伝わり、日本でも伝統的な技術として存在のあったもの。しかしながら、そのクロザンカクは時代とともに姿が薄れ、なかなか知られないものになってしまいました。
戦国時代などでは、甲冑などの武具に用いられたり、剣道の世界では高級品の一部に使われていたものの、それはごく一部の話。どことなく寂しくも感じます。
漆を擦り込まれたクロザンカクは、見た目の綺麗さは勿論のことながら、本来の目的は強度です。白なめし革はそれだけですと、柔らかく決して強靭とまでは言えない皮革です。しかしそこに漆によりコーティングがされることにより、刃物でも切りづらくなるほどの強度を得るようになります。
漆は手のかかる素材ですが、その強度はとてつもないもの。長い時代を経て、漆ものの器や重箱などが美術館で綺麗に輝くように、素材をぐっと強くするのです。
だからといって、「誰でも作れる」というわけでもないのが、クロザンカク。先日はクロザンカクのもう少しシボが大きい革にて、レザーアワードを受賞するほど、やはり特別な皮革なわけです。
海外産の皮革は、やはり素敵なものが多いですし、品質としては圧倒的に優れたものが多いと思います。
けれど、クロザンカクのように「純日本産」の皮革でも、これほど面白い表情のものが出来るのか、と初めて見たときは感じた物です。
使い込んで行くことで、その魅力はいっそう増して感じて頂けるはず。
クロザンカクはどんな風に経年変化していくのか、というのは表だった見本がないのが申し訳ないところですが、ゆっくりゆっくりとエイジングはしていきます。
使用を重ねるにつれキラキラとした光沢を持っていた漆部分は、少しずつ擦れていき、初めの光沢感とは異なる渋い艶感に変わります。いわば、シルバーがいぶし銀になるような。現象としては異なるものですが、風合いとしてはそんな具合。
そして素地となっている革の部分は、手で使用を重ねることで徐々に潤うような艶を帯びるようになっていきます。
その両方が合わさって、どことなくぬめっとしたような、柔らかく奥行きのある光沢感に変わって行くのが、クロザンカク。
色の変化はというと、黒はやはり黒のままですが、その黒さがさらに黒くなっていくような感覚。それは皮革全体にも言えることですが、はじめよりもさらに漆黒という言葉にふさわしいような黒に。
そして茶は、素地の革がアニリン染めで染色をされているので、日の光や手の油などをまといながら、徐々にムラ感が出て参ります。色濃く茶を醸し出す部分、少しずつ色が淡くなり赤みが強くなる部分など、茶独特の変化を見せてくれるようになります。これもやはり、茶の皮革らしい愉しみ。
と、なんだか妙に熱い具合でご案内をしてしまっているようにも思いますが、これはやはり日本に対する想い、なのかもしれません。
CIRCLEではル・ボナーさんの製品にて、クロザンカクはお愉しみ頂いています。
先日入荷したポーチ・ピッコロではクロザンカクを広い面積で味わえますし……
残心シリーズの小物では、手軽に身近にクロザンカクを愉しんで頂けると思います。
革には本来、順位なんてものは無いのだろうと思っていますが、クロザンカクは現在の日本産の皮革では、飛び抜けて面白く深い皮革ではないか、と思います。
遠くない将来(既に、もう一部ではなってきているようですが)、クロザンカクが海外に多く飛び立ち、これまで日本で「海外産の皮革はやっぱり良いよね」と言われてきたように、「日本産のクロザンカクは良いよね」と海外で言われるようになってくれるのかもしれません。
それはそれで、とても愉しみなことです。
そういう意味でもクロザンカクは、CIRCLEとしてはボナーさんにずっと続けてもらいたいなと思う、大切な皮革です。
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